「わが青春のマリアンヌ」マリアンヌは幽霊か幻か!?世界中に影響を与えた伝説の名作

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『わが青春のマリアンヌ』1955年フランス・ドイツ :MARIANNE DE MA JEUNESSE


「望郷」の名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作品。出演はマリアンヌ・ホルトなど。ペーター・ド・メンデルスゾーン『痛ましきアルカディア』を監督自身の脚色で映画化。漫画界の巨匠、松本零士をはじめ伝説のロックバンド、ジャックスやアルフィーなど多くのアーティストに影響を与えた青春ドラマの傑作。


美しく、儚く、そして残酷な通過儀礼。鹿が遊ぶ森と美しい湖を控えるイリゲンシュタット館には身寄りのない少年たちが暮らしていた。そこに、アルゼンチンからヴィンセントという少年がやってくる。少年たちと湖の対岸にある古城を訪れたヴィンセントは、マリアンヌという美しい女性と出会う…



思春期の少年が美しい女性に恋焦がれるといった作品は古典から現代劇まで数知れず。けれどーもしその女性が遥か遠い昔に存在した女性なら、、この世の人ではなかったら、、夢か幻影だったとしたら、、、。


魂が取り付かれたようにマリアンヌの虜になる少年の心を誰が咎めることができるでしょう。現実か空想か、、それは少年が女性に抱く永遠のあこがれ、憧憬の象徴なのか。


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戦後オールド映画ファンが(とくに男性陣)この映画の主人公とおなじようにマリアンヌに(主演女優名もマリアンヌ・ホルト)夢中になった伝説的な作品。999メーテルはじめ、少女マンガ、歌のモチーフまで、さまざまなカルチャーに影響を与え続けた青春の道しるべ。


わたしが作品の存在を知ったのはー映画に夢中になって間もなくのこと。以前の記事にも綴ったように→「映画スキはココから。名作&リバイバル」ー当時中学生のわたしは映画雑誌付録『映画名作集』をくまなく読み「観た映画」「これから観たい映画」に〇印や☆印をつけていくことが日課に。カナ順ゆえ「ワ行」最後に掲載されていたのが「わが青春のマリアンヌ」だった。


それから観たくて観たくてーしかしビデオも廃盤。往年ファンは路頭に迷っていたよう。それが数年前DVD化。わたしも約40年ぶりの念願叶い鑑賞できました!


寄湖の向こうに聳え立つ幻想的な城。少年が好奇心からそこに向かったとき、城には"マリアンヌ"と名乗る捕らわれの女性がいた。魂が吸い取られたかのように美しきマリアンヌに恋した少年。城から戻った彼の呆けた姿にクラスメイトは心配するのだが…


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荘厳な幻想的な城。ファースト・ショットから吸い込まれそう。


それはーいま見てもなんとも得難い不思議な世界。霧のヴェールに包まれたモノクロ映像美。神秘的でゴシック。あるときは妖気さえ漂わせる。


それでもーどこかホッとするのは湖畔を彩る見事な大自然。森を駆ける鹿、犬など動物たちの愛らしさ。そしてー好奇心に満ちた少年たちの残酷さと、それすら乗り越えていく友情があるから。


なによりー「ああ、人を好きになったらこうなってしまう」という誰でも共感しうる愛の一途さと危険性。狂うほど人を好きになることを誰も止められない。


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これほど魅惑な幻想的な作品をよくぞ忠実に神秘的に映像化したものだ。モノクロ画面から放たれる高質な光と影。現在の技術が進化しようが、おなじ味わいが出せるとは思えない。「望郷」「舞踏会の手帳」などの巨匠中の巨匠が青春の日を思い出すべく精魂込めた手腕だ。


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主人公の親友であるマンフレッド。物語はマンフレッドが不思議な青年ヴィンセントとの出会いから遡り思い出を回顧していくナレーションで綴られていく。


最後までのネタバレはしておりません。


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バイエルンにある寄宿学校は森と湖にかこまれた場所。ある日ーアルゼンチンからヴィンセント・ロリンガーという歌もギターも上手く、動物たちも手名付ける不思議な魅力をもった青年が転校してくる。彼はみなから"アルゼンチン"のあだ名で親しまれ、すぐ人気者となった。


思春期の寄宿学校の生徒みな好奇心のかたまり。


とくにー湖の向こう、霧の奥にそびえ立つ、謎の城にはさまざまな噂が広がっていた。


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塔には「幽霊がいる」「お化け屋敷」ー学校でも「強盗団」と呼ばれるワルガキたちは船を漕ぎ城の探索をなんども決行している。だがーなにかの気配を感じるたびコワくて逃げ出し帰ってきてしまう。


そんな折ー動物たちさえ虜にするヴィンセントの不可思議な能力を知ったワルガキたち。「城に一緒に行かないか」と彼を誘う。


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親友のマンフレッドも、ヴィンセントを兄のように慕う下級生も反対するがヴィンセントと強盗団は城へと冒険の旅に出かけてしまう。


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城に到着し塔に向かった強盗団たちを川岸で待っていたヴィンセント。戻らない彼らにしびれを切らしたヴィンセントは建物の中へ。弱虫な強盗団たちは猟犬たちに追いかけられとっくに城から逃げていたのだった。


ソウッと建物に入っていくヴィンセント…。


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そこには何百年も前のものか、、城に住んでいただろう美しい女性の肖像画が…。


吸い寄せられるように見惚れ、振り向くと、、、後ろに立っていたのは肖像画の女性だった。


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彼女の名はマリアンヌ。絵画から抜け出たままの妖精のような神秘な美貌。肉感的とは対照的な崇高な美だった。


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ヴィンセントは吸い寄せられるようにマリアンヌに魅了された。彼が生きてきた中でもっとも美しき汚れなきもの。


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「なぜ外に出ないんだ。外には楽しいことがたくさんあるのに」彼女は言う。「歳の離れた男爵に城に監禁されていて外出できない。この状態が何年も続いている、彼はどこにでも表れてわたしを離さない」と。


古城に住む乙女、陶酔。幻のごとく美と悲しみを纏っている女性マリアンヌ。ヴィンセントは時間さえ忘れて虜になる。


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「あなたみたいな人が来るのをずっと待っていた。信じていたの。束の間でも幸せ」


「僕もだ」「もう会えないのかしら」「かならず戻ってくる」


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ヴィンセントが城から戻ってきたとき、彼は昨日の奇跡的な出来事を親友に話しだす。天使のようなマリアンヌ。「自分は彼女を救い出す」と。


幻を見たに違いないと最初は信じなかった仲間も、尋常でない彼の表情と虚ろな瞳から信ぴょう性を感じとる。マリアンヌへの想いが募り湖に飛び込んで会いに行くという無謀なヴィンセントの異常行動を仲間たちは必死にひきとめる。


ある日ーマリアンヌからヴィンセントに1通の手紙が届く。 「わたしを助けてほしい」一言綴られていた。


ヴィンセントは仲間の制止をふりきり一人船を漕ぎマリアンヌに会いにいってしまう。


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「男爵から結婚を迫られている」と訴え、用意されたウエディング・ドレスを見せるマリアンヌ。「絶対にそんなことはさせない」ヴィンセント。


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マリアンヌは幸せそうに語りかける。「どんなことがあっても二人は一緒。何年たっても愛は変わらない。」


しかしーマリアンヌが場をすこし離れたときー突如、現れた男爵からヴィンセントは思いも寄らない真実を聞かされるのだった…!


マリアンヌとヴィンセント、愛の結末は、、


わたしは、、幽霊に魂を抜かれるというと怪談話「牡丹灯篭」を思い出し、、あの世とこの世の境界線を越えてしまう身の毛もよだつ恐怖がよぎり、鑑賞中は不安で胸騒ぎすら覚えたのですが、、、


映画はそうはならなかった。胸を撫でおろした。


"マリアンヌ"とは誰であり、何だったのだろう、、、。


ヴィンセントには溺愛してくれていた母親がアルゼンチンにいる。しかしーその母親に新しい男がいると知り愛着のある土地さえ売るという、、その現実を受けいることのできないマザー・コンプレックスが"マリアンヌ"という偶像を生み出したのではという説もある。


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若き日にー誰もが希望と絶望の過程を乗り越え大人になっていく。だがーその反面ー過去に自分が助けられなかった、救い出せなかった、結ばれなかった愛する人との思い出が、城に永遠に囚われの身となった永遠のマリアンヌと同化してしまう。


ー美しき「けがれ」のない人…愛を守り切れなかった少年の初恋は、大人になっても胸の内に静かな炎となって燃え続けている。だからこそマリアンヌは多くの人にとって忘れられない作品となったのではないか。


切ない叶わぬ慕情。マリアンヌは母であり愛であり初恋の大いなる女性像。松本零士が999のメーテルをマリアンヌから発想したというのも分かるのだ。


何世紀も前の肖像画に魂ごと心奪われ翻弄されるというシチュエーション。少女漫画家の大御所、里中満智子デビュー作「ピアの肖像」も道に迷った末に洋館にたどり着いた若者が肖像画の美女に恋してしまう悲劇を描いていた。アルフィーのヒット曲「メリーアン」も"マリアンヌ"からの由来だったとは! あらためて聞くと歌詞は映画そのものだしメリーアンは"マリアンヌ"とも聞こえるほど語呂もピッタリ。


遥か昔の肖像画、写真の人の姿に言葉を失うほど惹きつけられる経験ーわたしにも多くの人にもあるはず。マリアンヌが後のカルチャーに与えた影響は計り知れない。


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主役マリアンヌ・ホルトはドイツ人。ほかにいくつか出演を果たしたのち64年引退。静かに余生をすごし30年ほど前に他界している。彼女自身も永久のマリアンヌのごとく一作でみなのこころに刻まれた。金髪に弓の型眉が凛として麗しい人。


ちなみにー「わが青春のマリアンヌ」は紹介したフランス版のほかに、マリアンヌ・ホルト以外は全キャストを一新し同時期に撮影されたドイツ版も存在。そちらの主演ヴィンセント役には日本では映画「荒野の七人」で若きガンマンを演じてお馴染みのドイツ俳優ホルスト・ブッフホルツが抜擢されている。


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ドイツ版「わが青春のマリアンヌ」 ヴィンセント役が違うだけで雰囲気もまた異なってみえる。

ドイツ版はビデオも廃盤になっており、よほどのことがない限り今後観る機会は訪れそうもない。よりゴシック色が強いという話もありぜひそちらも観たいと切に願う。

一生の忘れられない余韻を多くの人に残し続けてきた「わが青春のマリアンヌ」 ぜひご覧いただきたい作品です。








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Comments 4

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ローリングウエスト  

モノクロ映像って想像力が高まって実に素晴らしいですね。小学生の頃、怪獣映画が大好きな自分でしたが、やはり恐怖と迫力は白黒作品だった第1作の「ゴジラ」でした。市民目線での恐怖とパニックが描かれたリアリティさに今も魅せられます。

2023/01/24 (Tue) 06:10 | EDIT | REPLY |   
m-pon5
m-pon5  
>モノクロ映画

ローリングウエストさん
コメントありがとうございます

モノクロ映画にはおっしゃるとおりカラーでは出せない独特の高質感と重厚感がありましたよね。それに映像でごまかせないので俳優の動きと脚本がすべてというくらい重要になりますよね。作品のマリアンヌ・ホルトはカラー写真で見ても美しい方でしたが神秘性はやはり白黒だったからこそと思います。

ローリングウエストさんが子供のころ体験した「ゴジラ」白黒映画の迫力コワさ!1作目あってこその壮大な歴史がはじまりましたね!

2023/01/24 (Tue) 18:09 | EDIT | REPLY |   
ローリングウエスト  

あなたがビージーズ映画を2回も鑑賞されたとはビックリでした!コメ返信入れておりますが。これからもジジーの音楽に共感を頂ければ幸せにございます!

2023/01/25 (Wed) 22:15 | EDIT | REPLY |   
m-pon5
m-pon5  

>ローリングウエストさん
2ページ前辺りに映画前と鑑賞後ビー・ジーズへの思いの丈を綴っておりますのでよかったら見てくださいね。よい映画&音楽は時をこえますね♪

2023/01/26 (Thu) 21:52 | EDIT | REPLY |   

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