映画「摩天楼を夢見て」アル・パチーノ、ジャックレモンら7名優!壮絶サラリーマンバトル!

「摩天楼を夢見て」1992年製作/アメリカ 原題:Glengarry Glen Ross
D・マメットのピューリッツァ賞受賞の戯曲を彼自身が脚本化。監督名匠J・フォーリー。NY不動産屋を舞台にセールスマンたちの意地のぶつかり合い、策謀と事件、心意気を描いていく。アル・パチーノ、ジャック・レモン、アレック・ボールドウィン、エド・ハリス、アラン・アーキン、ケヴィン・スペイシー、ジョナサン・プライスら人気・実力を備えた七人の名優による演技合戦が素晴らしい。ジャック・レモン最高傑作(ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞)であり本作でケヴィン・スペイシーがレモンの薫陶を受けたともいわれている。
不動産会社ミッチ&マレーのニューヨーク支社。不況の折、本社から若い幹部が乗り込んできて「成績の悪い奴はクビだ」と通達する。かつてはスゴ腕と呼ばれたものの、いまは成績不振に陥り、私生活でも病気の娘をかかえるベテラン営業マンのレーヴィンは仕事を失うことを恐れ、やはり成績の悪い同僚のモスとアーロナウは生き残りをかけて奇策に出るが……。
アカデミー賞/ゴールデングローブ助演男優賞ノミネート(アル・パチーノ)
ヴェネチア国際映画祭男優賞(ジャック・レモン)
社会人になればーどんな職種でも大変だ。けれどノルマのかかったセールスマンほど胃がキリキリ痛む職業は少ない。ましてや自分よりはるか年の若い幹部に罵られ「今夜中に一軒でも売らなければクビだ!」と怒鳴られた日には、、。
絶望の淵に陥った社員たち。売れなければ明日はない。その緊迫の夜から翌日までの1日を描いた人間ドラマ。なによりー名優たちの白熱、怒涛、繊細な演技合戦だけで見せ切った傑作。
それが90年代を代表する一作とまでいわれる「摩天楼を夢みて」

当時賞レースを賑わしていたのを知ってはいたが見逃していたので初見。二回連続で鑑賞してしまった。最初はストーリーを追い、次は俳優たちの名演技に酔いしれる。
「う、巧すぎる…!!」コレは中毒性がありそう。アメリカではカルトクラシックとなりいまは俳優を目指す卵たちのカタルシスにさえなっているそう。
それもそのハズ!
まずはーセールスマンを演じる、メンツをご覧あれ!!
アル・パチーノ、ジャック・レモン、ケヴィン・スぺイシー、エド・ハリス、 アラン・アーキン、アレック・ボールドウィンー、ジョナサン・プライスー!!
いまでは共演不可能とされる名優、クセ者揃い。トニー賞、アカデミー賞、ゴールデン・グローブなど受賞歴、ノミニーだけでも数知れず。正直ー申しまして、、、演技の右も左も分からないおコちゃまタレントがこの中に入ったらビビッて漏らしそう。逃げ出すか「堪忍してください」と泣き出すか、、もはや異次元の世界。

軽い芝居なら昼寝しながらでも出来そうな彼らが戯曲映画化に真剣勝負!オフィス内、車中、Barといった限られたシーンで計算され尽くしたショット、キレッキレの会話、爆発寸前の怒り、涙の名バトルを繰り広げていくというー。ド素人でも「演技」とはこうあるべきなのだと見惚れてしまう、引きと押しの美学。
上司からの理不尽な指示に社員たちは怒り心頭。「やってられるか!」と文句を垂れながらも生きるか死ぬかがかかっている。一夜内に顧客に電話をかけまくる、体当り訪問する。しかしラチがあかない。
土地は多額な商品。簡単に売れるワケがない。そんな社員たちがいちばん欲しいのは土地を買ってくれそうな「有力者たちの顧客リスト」だ。
「リストを譲ってくれ」と支店長に懇願する者もいるが答えは冷たい。「いちばん売り上げたヤツにしか見せない」
もはや情報リストを盗み出すしか手はないのか…!?

「新車どころか飯まで食えなくなる。こんなバカげた話があるか」彼らの不満は爆発寸前。
一夜が明け、、不動産事務所にはなんと実際に窃盗犯が入っていた! 顧客リスト、オフィスの電話まで盗まれた。警察に事情聴取される社員たち、、ダレがやったのか真実はどこに?というサスペンスフルドラマにもなっている。
まさしくーセールスマンという肩書を背負い働く男たちの死闘。
物語はニューヨーク地下鉄高架下の一角。不動産会社のN・Y支店。勤務するのはー中年社員4人。

ある夜ー本社から若い幹部がやってくる。演じるのはアレック・ボールドウィン。クセ者俳優中、唯一スターというべきキャスティング。じつはこの上役、舞台にはなく構図をより分かりやすくするため配置されたという。この演出も映画的スパイスと好評だったらしい。パワハラ全開だがーこんなサイアク上司そこら辺にいそうだ。

幹部はケツを叩くぞとばかり社員たちに罵詈雑言を吐き散らす。「いいか!売上一位になったヤツはキャデラック、ダメだったヤツはクビだ!」「お前らみたいなウジ虫は会社にはいらん」

社会人になって分かるサラリーマンの悲哀。年功序列など関係なし。年下上司から罵倒を繰り返された日には腸が煮えくりかえる。「覚えてやがれ」ー火の粉真っ赤のこころの内。
私事になるけれどー滅多に仕事の愚痴を漏らさかった亡き父が、唯一こぼしていた不満が「現場の仕事も分からん若い大卒者が入ってくるなり、アレコレ偉そうに支持してくるのだけはやっとれん!!」だった。社会に出てサラリーマンならダレシモが感じる不条理、容赦なさを作品は見せつける。

幹部後方にいるのはーいつも沈着、憎々しいほどムカッ腹が立つ冷酷非情なケヴィン・スペイシー演じる支店長である!

社員たちが不満を訴えようと平然と知らぬふり。血も涙もないーしかしーこんなヤツも会社にいる、いるー(笑)
スペイシーはコノ、そこはかとなくイヤな上司役で絶賛された後『ユージュアル・サスペクツ』でアカデミー助演男優賞『セブン』猟奇犯人役、『アメリカン・ビューティー』アカデミー最優秀主演男優賞と90年代を席巻する大性格俳優に。ーいまはセクハラ裁判でキャリアも途絶えているが、、俳優としてスペイシーの驚異演技術は恐るべしである!

社内でーもっともできる子(社員)がアル・パチーノ演じるリッキーだ。アル・パチーノはココでも「圧」がスゴイ(笑)

巧みな話術戦法で今日も一人カモを相手に(客はジョナサン・プライス)事務所下ラウンジで営業トーク。仲間から疎まれようが一匹オオカミを貫く。目的はひとつ。リッチになって食うため。アル・パチーノもこの作品前後をきっかけに80年代の大スランプから脱出!
とくに言えること―この作品、放送禁止用語の連発なのだ(笑)
くそったれ=「F〇〇K Y〇U!!」とにかく吠える、吠えまくる。
みんな生きるか死ぬかの瀬戸際。同僚同士いがみ合いフォローし合う。本質はライバル同士。海外エンタメ小説もそうだがー警察だろうがマフィアだろうが当たり前のように冒涜俗語を仲間うちで吐き散らすーそれこそリアリティがあり人間の泥クサさが飛び散ってくるようなのだ。

個人的にいちばんノリにノッテ演じていたのはエド・ハリスだと思う。やさぐれ感いっぱい。デイヴという、つねにストレスが噴火しかねないセールスマンという職業人の鬱憤を見事に演じている。この時期エド・ハリスが出演していれば間違いなくおもしろかった!
行き詰ったハリス演じるデイブは「顧客リスト」を盗み出したい。その相談を持ち掛ける相手が、、、、

アラン・アーキン演じる同僚ジョージである。社員中、唯一良識のある人。かといってこのままではいられないという男を一貫して抑えた演技で見せつける。
アラン・アーキンといえばー往年映画ファンにはオードリー主演『暗くなるまで待って』が強烈だった。盲目のオードリーと最後の死闘を繰り広げた犯人役だ。アカデミー賞になんどもノミニーされた末、2006年『リトル・ミスサンシャイン』で演じた気のイイおじいちゃん役でついにアカデミー助演男優賞を獲得。長年ファンとしてもウレシカッタナー!!

そしてーなんといっても作品の"キモは"ジャック・レモン。病弱の娘がいる彼は仕事の合間数分を見測り家族にうかがいの電話をかける。レモン演じるレーヴィンにとってセールスマン職は家族を養うため、長年のプライドで培われている。

そんな自分が明日クビになるかもしれない…宣告されたら元も子もない。必死にしがみつき「顧客リスト」欲しさに支店長に頭をさげ、拒否される虚しさ、憤り。
喜劇悲劇とアメリカ映画史をつかさどってきた大名優ジャック・レモンの集大成。戸惑い、怒り、泣きから勝利へ~しかしふたたび萎んでいく演技過程は「スゴイ…」と唸ってしまうばかり。
レモンがパチーノ、スぺイシーらと共演する夢のようなひとときを見るだけでも価値があるのに、、これだけのものを見せられたら完敗=乾杯するしかありません。

舞台劇ではシカゴ。それを映画では摩天楼のニューヨークに置き替えた。大都会の雑路、ネオンから朝靄へとセールスマンたちの刹那がいっそう浮き彫りに。派手なアクションもCGもないけれどーココには役者の演技そのもので魅せる醍醐味がある。
鑑賞する方もある程度ー大人になったからこそ作品の凄味、良さが分かるというもの。そう考えるとー大人になることも決してワルイことばかりじゃないとニヤリとしてしまうのです。
Glengarry Glen Ross「摩天楼を夢見て」名シーン2000件コメが! オフィス内カメラワーク、自然な動作とセリフの間。名優たちが演じているのにごくごくフツーのセールスマンにしか見えない。やりすぎない、コントにならない。これこそ至芸。
90年代最高映画のひとつに数えられる「摩天楼を夢見て」 ぜひご覧ください。
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