「毛糸の指輪」向田邦子脚本 昭和涙の名作ドラマ 森繁久彌 乙羽信子 大竹しのぶ

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名作ドラマ「毛糸の指輪」 1977年01月03日(月)


結婚35年、子どもがいない宇治原は、娘くらいの年の清子と知り合い、何度も会うようになった。それを知った妻のさつきまで清子を実の娘のように思うようになる。(59分)作:向田邦子。音楽:井上堯之。出演:森繁久彌、乙羽信子、大竹しのぶ、岡本富士太、三條美紀、森本レオ、夏桂子ほか。


たった60分たらずのドラマ。


けれどーこころに染入るようにあたたかく深く、人間の心理が右に左に動くかの弱さ、それさえも乗り越えようする強さも描かれ、観終わったあと、、、一粒の涙が頬を伝ってくる素晴らしい作品。


天才脚本家向田邦子、名優森繁久彌と乙羽信子演じる子のない夫婦。好きな人との結婚を夢見る健気なОLを演じたフレッシュな大竹しのぶ。派手さは一切なく、小さな小さな、ある冬の一コマを描いた人間同志の物語が、なぜーこんなに人のこころを打つのだろう。


数か月まえー偶然鑑賞し、あまりに素晴らしかったので物語で描かれる時節が「冬」ということもあり、寒いときが訪れたらブログにアップしたいと思っていました。


真の名役者が演じ、名演技を生かすドラマもなくなったかに思える昨今。「いま」…二度と作ることのできない名作。


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森繁久彌演じる主人公宇治原有吾は60歳。妻さつき(乙羽信子)と東京郊外の住宅で慎ましく暮らしている。有吾は頑固で昔かたぎ。出版社に勤めていたけれど、一徹な性格のせいか上司とやりあったりが原因で転々。退職したいまは自分より20も30も下の社員が働く『味覚王国』というグルメ本を発行する小さな出版社に身を置く身。若い社員少々けむたがられながら出勤している毎日。


森繁さんの風貌は、いまの六十歳より老けてみえる。けれどー年を重ね社会から徐々に疎外されていくような感じ、、気持ちは十分若い、まだまだヤレる。しかしー発散できる場、認めてくれる人たちが職場にも家にもに見出せない…こんな「やるせなさ」は昭和だろうが寿命が延びた現在もーなんだかすこしも変っていないように見える。


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そんな有吾が鬱憤晴らし、気晴らしに立ち寄るのがゲーム・センター。そこであるカップルに目が留まった。女性の方は近くのレストランで働いている、素朴で純朴な愛らしい22才の娘、清子(大竹しのぶ) 男性の方は食品会社に勤める時夫(岡本富士太)という青年だ。


ふたりはお見合いの話をしているようだった。清子は時夫が大好きなのに、自分は親兄弟の身寄りがなく、釣り合わないと内心諦めていたため、一生懸命に時夫を励ましていたのだった。


「時夫さん、お見合い、賛成! すごい出世コースだね。え、あたし? あたしみたいに親兄弟の身寄りのない女の子にはダレもお見合いの話なんてもってこないもの。チャンスだよ、お見合い断ったらバカよ、ガンバってね」


それを離れた見ていた有吾には清子が明らかに無理をしているように映った。時夫に見えないように、影でひとり寂しく涙をそっとぬぐう清子。


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それを見た有吾は清子に話しかける。「あんた、諦めたら負けだよ。自分にもっと正直になった方がいい」


はじめはヘンな中年に話しかけられと警戒心をもった清子だったけれど、朴訥、ユーモアもある有吾に打ち解け話しはじめた。聞くとー清子は近くのレストランで働いており父親は十年前に亡くなったという。一緒にいた時夫とは友だち以上恋人未満。有吾の冗談に屈託なく笑う清子。色とりどりの毛糸で編んだ手袋が彼女の優しさや飾らなさを表しているようだった。


まるでー自分の娘の悩みを聞くように癒され、清子にたびたび会うようになった有吾。


それはーひょんなことから妻さつきにもバレてしまう。さつきも最初は「娘みたいな若い子に会うなんて」と呆れていたが、徐々に少女の純粋さが愛おしくなってきた。有吾に「男のオレでは分からんところもある。女のお前にも知恵を貸してくれ」と言われたら、娘を放ってはおけない。


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我が家の食卓に清子を呼び、おでんをふる舞う夫婦。ひとり数が増えただけで活気づく食卓。自分の娘のように箸の持ち方、行儀作法まで教える有吾。「そんな、やかましいことばかり言って嫌われますよ」とさつきが言うものの、かいがいしい愛に触れ清子も嬉しそうだ。


ドラマを彩る部屋の障子、コタツ、着物姿、どれもが懐かしく、、グツグツ煮立つ"おでん"のなんとも美味しそうなこと。視聴者はその風景にいつしか忘れていた郷愁を思い起こす。


清子はいつしか本当の娘のように宇治原家に毎週末やってくるようになった。漬物のつけ方、洋服をあつらえ、一緒に食事したり、素直な清子は夫婦に「娘」ができたような喜びを与えてくれる。


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だがーその親ごころが強くなり心配になった有吾は、清子の好きな相手、時夫の気持ちを確かめようと彼に会いに行ってしまう。「女房にするなら清子のような子の方がいい」とアドバイスまで。他人に指図されたくないと怒る時夫…。


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そのことをを知った清子は「余計なことをしないで!」と玄関に怒鳴りこんできた。「本当の親なら気を揉んでるだけのはず…わざわざ彼に会いに行くなんて!」と。


大竹しのぶの初々しい幼さから、怒ったときへの豹変ぶり。切羽詰まった危機感が全身からにじみ出る。すでに将来の片鱗がココでも垣間見れる。


清子が恋を諦めようとしているのを知った、さつきはアドバイスする。「後悔するわ。わたしだって過去には大好きな人がいたけれど諦めた。勇気があったら別の人生を歩んでいたかも。いまなら相手にむしゃぶりついてだって、ぶつかっていく」と語りかける。「お前にそんな過去があったのか」とオロオロする有吾。


勇気をもらった清子は「彼のアパートに直接これから行って本当の気持ちを確かめる」という。清子を送り出す有吾とさつき。


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それでもー出かけていった清子が心配で心配で、さつきは時夫のアパートを探し出し清子が来ていないか確かめた。結局ー清子は来ていないことを知り、そっと立ち去ろうと振り向くと、なんと追いかけてきた有吾が立っていた。夫婦寄り添い帰っていく二人。


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その二人の姿を公衆電話からソッと見ていた清子。ありがたさを胸に手袋をそっとはずし、アパート前の公衆電話から時夫に電話をかける。


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それに気づいた時夫も駆けてきた。「結婚しよう!」彼の胸に抱きつく清子。


互いの気持ちが成就し「結婚することが決まった」ことを清子から聞かされ、手放しで喜ぶ有吾とさつき。


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実の娘を嫁に出すような思いの夫婦。「結婚式にも呼ばれるわね」二人の空想は膨らむばかり。花嫁衣裳は着物か、ウェディングドレスかしら…想いを馳せ夢心地。清子が両手をついて挨拶に来てくれて、、夫婦の喜びは止まらない。


しかしー出鼻はくじかれた。ある日会社に電話してみると同僚が言う。「今日が結婚式ですよ。なんでも婿さんのおじいさんの具合がワルイとかであちらの故郷で急いで挙げたみたいです」と。


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有吾とさつきは…絶句した。言葉もない。「急いでたって知らせてくれればいいのに」「いまの若いモンはこんなもんだ」「ホントの親だってジャマになるっていうじゃないか」「ホントの娘が出来たみいだったのにねえ」


夫婦ふたりで晩酌し…過去を慈しみ、子のない人生を受け止め、笑った。「いい時間がいっときでも持てた、それでいいじゃないか。影ながら娘に晩酌してやろう。」微笑むさつき。清子が座っていた座布団を懐かしみながら…


そんなときー電話が鳴った!


受話器をとるとー電話の声は清子だった。


「もしもし、、あの、、ね。お父さん、お母さん、、。いろいろありがとうございました。フフフ、いっぺん、言ってみたかったんだ。」


泣き声になるさつきと有吾。


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「清ちゃん、おめでとう!つらいことがあったら、いつでもおいで」


電話の向こうの清子も鼻をすすりあげる。


「孫が生まれたら見せにくるんだよ」「ハイ!」 


夫婦の顔から涙がとめどなく流れる。受話器を置いたとき、泣き顔はいつしか笑い顔に変わっていた。


「もう孫の心配なんて早いわよ」涙顔で苦笑するさつき。「どうせお七夜、七五三ってたかられるんだから」「それもよし、これもよし」 幸せな顔が有吾の顔に広がった。


縁側に立ち窓を開けると、雪がチラチラと舞っている。


「初雪だわ」
「今年はいい年になりそうじゃないか」


ドラマは静かに幕をとじて、、。


観終わったあと…ジワ~ッと愛が沁み込む、、。涙がツツーッと頬を伝わりしらずしらず泣けてきて「ああーいいドラマだったなあ」


向田さんドラマでは昨日もBS放映された「阿修羅のごとく」をはじめ名作揃い。逝去後も原案をもとにし、いくつもの向田ドラマが制作されている。


けれどー傑作が多いのは向田さんご本人が生前、脚本を手掛けドラマ化した作品たち。圧倒的に面白い。そこには向田さんご本人の真っすぐで真摯な人間洞察、自らが経験してこられ生きてきた証がある。奇麗なものばかりではない、他人と比較して卑下する自分、あるときは決して人に見せたくない業が潜んでいたりする。


だから向田さんドラマや小説を見ると生々しく、滑稽で可笑しくなると同時に、突き付けられた本心。自らの隠しておきたい投影を演じる俳優たちを見て、こっ恥ずかしくなるのだ。


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しかしー共通しているのは「どの人も人生を一生懸命日々を暮らしていること」この小さなドラマの人物たちもそうだ。人生の幸福も、他人から見たら不幸せと見えるものかもしれない現実も、みな受け止めている。


その、どこにでもいるかもしれない優しき主人公を、至極の芸域で演じてくれた俳優たちー名優、森繁さんの動作、セリフの間をすべてを知り尽くしていた向田さん。体当りに受け止める乙羽さん。堂々と大ベテラン二人を前にして健気で愛らしい女性を演じきる大竹しのぶは、この時から若手の中では群を抜いていた。


「幸せ」ってなんだろう。人それぞれがいろいろな想いをもちながら人生を生きている。価値観は自分でしか測れない。ふだんの暮らしで、ふいに訪れるささやかな幸福。それを見つける瞬間のため、人は生きていけるのではないか。


向田さんの『毛糸の指輪』はそのことの尊さ、あたたかを教えてくれる。





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