「エルヴィス」本音レビュー バズ・ラーマン監督流伝記とは!?タイトルにも物申す。

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「エルヴィス」2022年製作/159分/G/アメリカ


人気絶頂で謎の死を遂げたスーパースター、エルヴィス・プレスリー。彼が禁断の音楽“ロック"を生んだライブの日から世界は一変した。型破りに逆境を打ち破る伝説と、裏側の危ない実話。彼を殺したのは誰なのか?監督は『ギャッビー』『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン。オースティン・バトラーがエルヴィス、トム・ハンクスがそのマネージャーに扮した。



劇場で観終わって思ったこと…


ー「トム・パーカー大佐いらない」(爆)


『エルヴィス』の映画を観ているはずが、マネージャー、トム・バーカー大佐視点で描かれるこの作品ーいっそ…『エルヴィスを食い物にした男』とか『金と野望の男トム・パーカー』というタイトルにした方がよほどシックリくるのではないかと思ってしまった。


主をどこに置きたいのか最後まで分からず、正直ー満足した映画とは言い難く、戸惑いの方がガツンと大きく上回ってしまいました。


ゴージャス、ギラギラ映像がお得意の監督バズ・ラーマン、、、"エルヴィスを殺したのは誰か"というキャッチ・コピーで埋まる日本版チラシを目にしたとき、イヤ~な予感がよぎったのが的中。


これはジョン・レノンが口にしていたことでもあるけれどー誤解を恐れずにいえば「ビートルズはマネージャーを超えて自立したため、マネージャーが失意のまま命を落とした。エルヴィスの場合はマネージャーがエルヴィスを支配した挙句、エルヴィスが路頭に迷い絶え、マネージャーが生き残った」


ならば、、マネージャーであるトム・パーカーを主役に見立て悪の半生として語られるならナットクもいく。けれどー悪徳マネージャーに翻弄され悲惨で哀しい運命をたどるエルヴィス。ー悲劇的な部分だけにスポットをあてた映画を観たいと思うだろうか。わたしが望んでいたものとは違っていた…。


しかしー上映後は本家エルヴィスの歌を無性に聴きたくなり、結局エルヴィスはサイコー!!となってしまう。どうしたものか。『トップガン マーヴェリック』のように手放しで喜べる作品ならレビューもしやすい。7月末に駆け込みで鑑賞したというのに、頭の中がまとまらず時だけが過ぎてしまった。感想もお察し頂けるかと思う。


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若きエルヴィス時代のオースティン・バトラー。


わたし自身ー熱狂的なエルヴィスファンの方には遠く及ばないが、10代で洋楽に触れてきてから当たり前のように彼のアルバム、音楽に触れてきた。日テレ衛星中継再放映『アロハ・フロム・ハワイ』では少々疲れ気味のエルヴィスに胸痛めながらも圧倒的なパフォーマンスにシビレ、プレスリー映画にも浸ってきた一(いち)音楽ファン。


なまじ中途半端な立ち位置で観たのが間違いだったのか、、。エルヴィス初体験、また熱烈ファンの立場で鑑賞していたら、、「エルヴィスを描いてくれる事自体がウレシイ」・・と寛容に受け止めれる側だったのかも (…米日ともファンの間でも感想は両極端に割れているようだけれど…)と、悩んでしまった。


全編バズ・ラーマン色の極致! 万華鏡のような虚像と現実の世界。絢爛なショービジネスを生きる音楽史上最高のスーパー・スター、エルヴィスの伝記…なら、、まだ良かった。


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しかし、本作ではトム・パーカー大佐が終始、語り手。暗黒ムードで進んでいく。エルヴィスがつねに脇役でいるような不協和音が纏わりつき、たまらなく不快な気分に。


パーカー大佐はアクが強いやり手。売れる為なら手段を択ばない敏腕マネージャーだ。エルヴィスの周りにはメンフィス・マフィアと呼ばれる取り巻きが常におり、良きにしも悪きにしもエルヴィスの側を離れぬ護衛陣。一種異様な日々の中、エルヴィスの私生活がコントロールされていたことも、音楽ファンなら昔から情報源などで耳にしていたこと。


ビジネスの才覚はあるけれど、悪辣、金に糸目がないマネージャーのトム・パーカー。大佐がチラつくたびに気がそがれる。


なにしろーノリノリ、高揚感が湧き出るはずのエルヴィス歌唱シーンさえ、頻繁なパーカー登場で散々遮られてしまう。


著作謙問題か、丸ごと披露された曲はなく歌は中途半端にフェード・アウト。「love me tender」「Can't Help Falling In Love」流れたのかすら曖昧。多数あるエルヴィスの偉大なヒット曲がフルに聴けないフラストレーションがフツフツ。ナゼ、ココで切ってしまう!?ナゼ最後まで歌わせない?


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黒人さながらシャウトに腰ふりパフォーマンス!熱狂する女の子たちと眉を顰める大人たち。世界を変えたスーパー・スター、エルヴィスの壮大な物語がはじまっていくプロローグにはドキドキ。


序盤までヨカッタ!少年時代から黒人音楽に感化された青春期。ビールストリートで若きリトル・リチャードの演奏を見て興奮。BBキングとの交流。音楽ファンとしてこの辺りの描写はワクワクたまらない。


パーカー大佐と初めて言葉を交わす遊園地。夢か幻か…観覧車、きらびやかな幻さながらの世界。エルヴィスが戸惑いながらも天性の才能を開花させプロになっていく過程はラーマンらしく絢爛サーカスのようにゴージャス。


ただーそれからが、、、いただけなかった。物事はパーカー大佐ありきの小間切れエピソード。


さらに疑問だったこと。黒人アーティストとの関わりだけがクローズアップ。著名な白人スターとの切磋琢磨や友情などは皆無。


許可が下りなかったのかー不思議なほど白人アーティストやハリウッド関係者たちとの交流は描かれない。エルヴィス原点はゴスペルやロックンロールであると同時に、カントリーの影響も多大に受けていたのだから、ひとつやふたつエピソードが出てきてもおかしくないはずなのに。


これはー昨今ポリコレの影響だろうから、そこに焦点を当てて描かれるのは仕方ない、、、数年前に公開されたビートルズ『エイト・デイズ・ア・ウイーク』も同様な傾向がみられた。彼らが人種問題に異を唱えたことが強くクローズアップされていたがーこれらは取り立てて長く話題にもならなかったこと。エルヴィスに関してもー政治的スタンスとは距離を置いていたイメージが強い。そのことを他ミュージシャンから批判されていたこともあったのだ。


作品内でもエルヴィスが黒人差別に苦慮し、彼の行動と人種問題がクロスしたように描かれている。しかし実際はー公民権運動、キング暗殺など社会情勢に向き合えない自らのスターとしての立ち位置。社会とのギャップに本人は憤りや矛盾を感じていたのではないか。そこを掘り下げていれば、より深い人間ドラマになっただろうに、、、。


ー物語は60年代後半にサッと飛ぶ。こころの揺れもスタッフたちとの数行の会話で済まされ、TV「カムバック・スペシャル」へ。合間に世相フィルムを入れ込む描写も掘り下げ方が単純で浅い。憎々しいパーカー大佐は相変わらずストーリーの主導権を握ってしまうし。


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ーエルヴィスの苦悩すべてがパーカー絡みであったワケではないと思う。たが映画では彼の支配下に置かれ、ステレオタイプの狩猟主にムチで使いまわされているように描写されていく。


パーカー大佐は巨大な権力者。けれどーエルヴィス個人としてもあらゆる不安や喜びにかられていた。兵役への不安、プリシラとの恋、除隊後の人気低下。60年代へと移り変わる時代、ディラン、ビートルズなど新たなアーティストたちの出現への焦り。~自己の悩みを無数にエルヴィスは抱えていたはずだ。


本人自身の人間としての生きざま、ナマナマしさが観たかった。エルヴィスを主としての物語ではドラマチックにはなり得なかったのだろうか?疑問に思う。


やれきれないまま、、映画も終盤。ーなかでも解せなくもっとも腹立たしかった場面は肝心のクライマックス。ラスベガス公演パフォーマンス・シーンである。


、、ここでも不安が的中! エルヴィスが再起をかけ全身全霊で挑むステージ!


「被せてくるなよ、被せてこないでよー」と祈る気持ちも空しくー、、


「Suspicious Minds♪」エルヴィスが高揚、熱唱するステージからカメラは観客席テーブルへ。そこには金の交渉をするパーカー大佐たち!議論シーンが長々と。


アーア、なんなんですか、この映画。エルヴィスの雄姿を見せたいのか見せたくないのか。主役はいったいダレ!?


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ーこれこそラーマン流の描きたかったエルヴィスなのか(すべてが事実か否かでないしにしても…)虚無と現実、愛と孤独の狭間に生きたスターと利用し金をむしり取った悪役パーカー大佐。対比構図を描いた一大絵巻?悶々としっぱなしだったわたしは、ラーマン策略にまんまとかかってしまったクチかも。バズ・ラーマン式、エルヴィスの生涯に。


脇役も多数出てはくるが、主演は間違いなくオースティン・バトラーとトム・ハンクス二人。


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バトラーはエルヴィス本人研究し尽くし疑似体験しているかの如くリスペクトしながら、自由に舞う風のよう。彼自身のエルヴィスを若々しく、ときに晩年は行き所のないやるせさなを演じ切っていた。


最初はヒョロリとしずき似ていていないなあと思ったものの、徐々にスクリーンからオーラが発される。睫毛が長くトロンとした目元のセクシーさ、話をするときの上品な口元。口角を少し上げて話す表情、声色などエルヴィスそっくり! 世界万人にあるエルヴィス像を演じることは度胸がどれほど備わっている人でも二の足を踏む大役。よくやり遂げたと思う。


若い方のレビューを目にするとバトラーの魅力にメロメロになり絶賛している方が多い。彼のフィルターをとおして初めてエルヴィスを認識している節もあるようだ。バトラー演じたエルヴィスは、それだけ、なまめかしく魅力的だったということ。


しかしー演技合戦となるとトム・ハンクスの方が一枚も二枚も上手! ツーショットではハンクス演じるパーカーの太々しすぎる横柄さ、不気味さはディズニーに出てくる魔女のよう。薄ら寒くバトラーも食われてしまう。わたしがパーカー大佐をこれほど嫌悪に感じたのはハンクスの見事に作り込んだ演技のせいではない。パーカーが場のお株をさらうかのように疎ましく出てくる演出と主軸があいまいな脚本。そこが不服だった。


たんなる『エルヴィス』物語として制作しなかったのはー名優ハンクスのネーム・バリューと演技力が監督サイドには必要だったのではないか。彼をバックアップすることは興行的にも評価的にも約束されるようなもの。忖度とは言わずとも、そこまで想像してしまったくらい、コレはトム・ハンクスの作品でもあった。


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晩年のエルヴィス本人。ツアーの模様は『エルヴィス・オン・ステージ』などのドキュメンタリー映画で観ることが可能!


映画はーファンなら誰しもが知っている哀しい結末へ。巨額なマネー、欲が渦巻き、追い込まれていったエルヴィス。スーパースターと呼ばれる人たちが思いも寄らない若さでこの世から消えてしまう儚さ、虚しさをわたしたちは知っている。巨大なビジネスの闇と光を最初に教えてくれてたのも彼だった。


世界中を虜にし魅了し熱狂させたキング。多くの取り巻きがいながら、なぜ誰も彼を助けてあげられなかったのか、、つくづく寂しい気持ちに。


しかしー悶々としたフラストレーションを解消してくれたのはーラスト、スクリーンに映し出されたエルヴィスご本人!


映画の内容はともかく、曲のパワー。ゴスペル、ロックン・ロール、カントリー~なんでも歌いこなす究極の歌唱力。ハンサムでいつの世もカッコイイ不世出のエルヴィス!


映画を観て世界中の人が改めて彼の魅力にシビレた時間。わたしも帰り車中ではエルヴィスを目いっぱい流し一緒に歌い余韻に浸ってしまった。


好き勝手に書いてしまったけれどー米でも若い人が多いレビューサイト"Rotten tomato"などは別にして、英米レビューを覗くと絶賛する人もいれば古くからのファンには、わたしのようなーそれ以上に受け入れられないという感想と両極端に分かれている傾向が興味深い。どの視点で見るかに寄って変わるだろうし、新規ファンと長年ファンでは味方が変わって当然だと思う。


とくに米英で大ヒットしたことは大いにナットク! 米ではエルヴィスは戦後の現代アメリカの歴史そのもの。ジャンルすら超えてアメリカ人の故郷。誰も不定しえない。英国におけるビートルズやクイーンともまたちょっと違う気がする。ベーブ・ルース、ジョン・ウェインなどと並び、アメリカの文化、象徴そのものがエルヴィス。


ところでー『エルヴィス』字幕監修にも関り、50年代から筋金入りのエルヴィス・ファンといえば湯川れい子さん。50年前の雑誌に長き交渉の末、米ツアー中のエルヴィスと夢のような独占対談をした記事が掲載されている。


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所有雑誌。湯川さんとエルヴィス。彼の周りにはもちろんトム・パーカーも。ミュージック・ライフの星加ルミ子さんといい歴史の一証人。時代の先駆者。驚嘆と尊敬の念をますます抱いてしまいます。


個人的にはーラーマン監督以外のエルヴィス像も観てみたい。米英の底力ミニシリーズなど制作費をかけたミュージシャン伝記ドラマなどにも今後期待したい。


映画で興味をもたれた方ーエルヴィス自身の映像もたくさん発売されています。ラスベガス公演を収録した『elvis on stage』涙なくしては見られないドキュメンタリーの傑作『This is Elvis』~公式youtubeでフツーに見られる『Comeback Elvis68』も今作と比較して見るのもまた楽しい。数々のエルヴィスが主演した娯楽作映画も!


『ラスベガス万歳』楽しくてサイコーですよ~ーアン・マーグレットとの相性もバツグンー。若い方には一歩進んで本物のエルヴィスにもぜひ触れてほしい。シルクの甘い囁きとロックが融合した絶品のヴォーカルは、こころを包んでくれること間違いなし。


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『エルヴィス』出演の3人。バトラーの爽やかさ、トム・ハンクスのスリムさ! 映画でいかに化けていたかが分かるショット。研ぎ澄まされた俳優たちの役づくりはスゴイと感心してしまうことしきりです。






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Comments 2

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ギターマジシャン  
エルヴィス・プレスリー

ハワイ公演の生中継を母が見ていて、こんな歌手の人がいるのかと思いましたが、洋楽をほとんど聴いたことのない小学生の自分にはピンと来なくて、中学になるとビートルズに夢中となったので、プレスリーはヒット曲をいくつか知っているのと、晩年の姿ばかり記憶に残っています。

昔の映像を見ると、加山雄三もそうですが、プレスリーも男が見てもほれぼれするくらいに格好良いですね。

伝記映画は、m-pon5さんのおっしゃるように、どこに視点を置くかでかなり変わってくると思いますし、自分にとっては大ヒットの「ボヘミアンラプソディ」でさえ、時系列が違ったり、後付けの解釈があったりと、突っ込みどころ満載です。

2022/10/02 (Sun) 06:20 | EDIT | REPLY |   
m-pon5
m-pon5  
>エルヴィス・プレスリー

>ギターマジシャンさん
コメントありがとうございます<(_ _)>

伝記映画を観る観点はホント難しいですね…。
「エルヴィス」大手サイトでは絶賛レビューが大半を占めている印象で、恐る恐る感想を綴りました(笑)
パーカー視点に疑問視する声も中にはちゃんとあり、むしろそちらにイイねが多かったり。初エルヴィスの方には曲もヒストリーも新鮮に映るだろうし、逆にすこし知識がある人にとっては複雑だったりと…。ミュージシャン伝記となると人それぞれ思い入れ、視点も違うでしょうから作品として冷静に評価が定まるのは何十年もあとのような気がしますね。

あー…『ボヘミ』はわたしも複雑でした。ライブエイドの臨場感は素晴らしい!…半面ドラマ部分の脚本が簡素すぎて感情移入できないまま。おなじくビートルズ『バックビート』『ノーウェア・ボーイ』なども表面だけなぞったお粗末な印象。ポール本人が「なんでオレじゃなくジョンがlong toll Sallyを歌ってるんだ」と抗議してましたからね(笑)2時間で偉大なミュージシャンを語り尽くすのが土台無理!?ミニ・シリーズでディラン物語でもレノンの生涯などいつか手掛けてほしいものです。おっしゃる通りー結局は『ボヘミ』も『エルヴィス』も最後に映し出されたご本人!フレディ、エルヴィスのカッコ良さ、カリスマに圧倒される幕引きなのでした。

2022/10/02 (Sun) 16:43 | EDIT | REPLY |   

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