『ハーヴェイ』2メートルのウサギと友達の男 アカデミー賞受賞 笑いと風刺の名作喜劇

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『ハーヴェイ』1950年製作/アメリカ Harvey


ジェームズ・スチュワートが珠玉の演技を見せる喜劇映画。原作はピュリッツァ賞を受け舞台でロングランした喜劇、メアリー・チェイスの同名戯曲。「気まぐれ天使」のヘンリー・コスターが監督。


アカデミー最優秀助演女優賞受賞 
ジョセフィン・ハル


AFI 歴代映画100 ベストコメディ35位
AFI 歴代映画ファンタジー映画7位



小さな田舎町の邸宅に住む中年男エルウッド。温厚で優しい紳士。だが一緒に暮らすエルウッドの姉ヴィタとその娘マートルは彼のことが頭痛の種。なぜならーエルウッドには親友の6フィート、約2メートルもある大ウサギがの親友がいるからだ。名は"ハーヴェイ"。邸宅にいつも遊びに来ていて酒場や街、二人はどこにも一緒に出かけていく。ハーヴェイはエルウッドのほかには誰にも見えない。このままでは娘の結婚の差し障りになると、ヴィタはエルウッドを精神病院に入院させようとするのだが…・。



身近に2メートルのウサギのプーカと親友だという人がいたら、どうするでしょう?


わたしの大好きな作品。また公開時から現在にいたるまで世界中の子供から大人まで皆に愛され続けている人間喜劇の傑作。


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巨大な白ウサギのプーカ(6フィート約2メートル)名は「ハーヴェイ」


そんなウサギの妖精と親友なのが中年紳士エルウッド。ハーヴェイの姿が見えるのは彼ただ一人。彼は邸宅にハーヴェイを招くし、バーでは二人分のオーダーを頼み、駅の切符も二枚注文してしまう(笑)


ウサギと親友のエルウッドは変人?頭の弱い人?はたまたアルコール依存症? 常人ではない世間の基準から逸脱した人。けれどー温厚で親切な彼はみなから好かれている。


彼から幸せを奪うことはだれにも出来ない。もしかしたらー我々こそ人を傷つけ、私利私欲にまみれた俗人なのではないか?・・エルウッドの素朴さ、優しさに触れた人たちはみんな幸せになっていくことに映画を観ているうちに気付かされていく物語だ。


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バーでも隣のハーヴェイとフツーに会話するエルウッド。後方の客の表情に注目!(笑)
オレにはなにも見えないぞ!?どーなってるの!?w


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主演エルウッドを演じるのは名優ジェームズ・スチュワート。2メートルのウサギと親友。社会の概念から並外れた個性をもつ愛すべき主人公を各方面から絶賛された見事なベスト・パフォーマンスで体現。



『スミス都へ行く』『素晴らしき哉、人生!』ー『ハーヴェイ』と戦中戦後のキャプラ監督、ヒッチコック作品、西部劇ではアンソニー・マン監督と名作に暇無しの彼だけれど、わたしがジェームズ・スチュワートに決定的に恋してしまったのが先の三本! 愛さずはいられないチャーミングなピュアさ! 俳優多しど『ハーヴェイ』の飄々たる優しき主人公はジミー以外にはまったく考えられない究極の役柄。


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大好きなショット。名作が山ほどあるスチュワートが生涯もっとも愛し好きだったのが『ハーヴェイ』と語っていたほど彼自身にとっても愛着のある作品であった。


ジェームズ・スチュワートはアメリカの「良心」「善意」と称される俳優。


Conscience (コンシェンス)=良心


「良心」と聞いて、いちばん分かりやすいたとえで思い出すのはディズニー映画『ピノキオ』だ。 ピノキオがはじめて動き、話すようになったとき、妖精が現われピノキオに諭す。


「人間の子になるには、勇敢で誠実で利己的でないことを身をもって示すこと。善悪の判断を学ばなければなりません」と。


さらにーピノキオの手助けをかってでるクリケットに妖精はいう。


「クリケット、それならあなたはピノキオの゛良心conscience"になってね」


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「ハーヴェイ」では「良心」そのままのジェームズ・スチュワートがそこにいる。ほんわか漂う夢の中にいるような空気を放ち続けて。


しかしーところかまわず誰にもハーヴェイを紹介するエルウッドに姉ヴィタは悩まされ彼を精神病院に入院させようと決意。だがー相談しに行った病院で、姉ヴィタは精神科医にもうひとつの真実を涙ながらに打ち明ける。


「最近、家にいるハーヴェイがわたしにも見えるんです!!」 エェーッ!?


興奮する姉ヴィタの姿を見て、彼女の方こそ異常者だと勘違いした医師。エルウッドを帰宅させ、ヴィタを逆に監禁してしまう。大騒動に発展!


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ーてんやわんやの賑やかな姉を演じた演技者ジョセフィン・ハルはこの名演技でアカデミー助演賞を獲得。当時61歳。スチュワート同様に舞台で演じたハマり役。オロオロ、善意と疑念に揺れ動く姉を熱演。上手い女優ですよ~。



そしてー映画中、もっとも有名シーンといえば、、、


エルウッドが、ハーヴェイとの出会いを精神科医と看護婦に約10分間にわたり、とくとくと一人語りするシーンだ。映画史に残る名場面。親に童話を読んでもらったときの子供のように、、夢ごこちで語るスチュワートの澄んだ瞳。


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ポエムを唱えるように語り出すエルウッド。落ち着いた語り口は崇高でさえある。


「~5、6年前通りを歩いていたとき、声がした。゛エルウッドさん"と。振り返ると1.9メートルのウサギが立ってた。おなじ町に長くいると名前を覚えられても不思議じゃない。僕はこう切り出した。"ちょっと不公平だろ。キミは僕の名前を知ってるのに、僕はキミの名前を知らない。すると彼が返してきたんだ。"君の好きな名前は"?と。僕は一切迷わずこう答えた。「ハーヴェイ」っていう名前がいいな。…ここからが不思議な話でね。彼はこう答えた。 …"奇遇だね。僕の名前はハーヴェイだ"ってね」


とうとうーある日のこと。エルウッドは病院に連れてこられ、血清注射を打たれることに…!


いわばフツーの?人間に戻ってしまうのだ。


そんなとき、エルウッドを病院に乗せてきたタクシー運転者がヴィタに言い放つ。


じつはー映画の鍵(キモ)になるメッセージは、このータクシー運転手が語るつぎの言葉に集約されている。


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「なんてこった。病院までに患者を乗せるルートを走って15年。行きは楽しく会話できるし車を止めて鳥を眺める。雨の日には夕焼けを眺める。チップもくれる。だがー注射打った帰りはどうだ。みな不機嫌になる。やれ信号だ、交差点だと怒鳴ってばかり。おなじ運転手でおなじ道なのにさ。みんな変わってしまう。注射したらフツウの人になる。要はイヤなヤツに変わるんだよ!」


ヴィタはタクシー運転手のハナシを聞き、泣き出し叫ぶ!


「止めて!! 注射を止めて。エルウッドがフツーのイヤな人間になるなんてイヤ!!」


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エルウッドの穏やかな幸せこそが、家族にとっても真の幸せであることを悟った姉ヴィタ。


ドタバタ騒動で騒がしく滑稽で可笑しいのに、じんわりした感動が広がっていくハート・ウォーミングな物語。


爆笑喜劇といえど一級の風刺劇にもなっている。「人間らしさ」「誠」とは、、「尊厳」とは、、心温まるヒューマニズムで描き出し、見終わったあと、ほのぼのと胸に染み込む純真さを伝えてくれる。未見の方はぜひご覧になってみて下さい。


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『ハーヴェイ』アメリカ版ポスター


わたしがこの作品の存在をはじめて知ったのはー映画『フィールド・オヴ・ドリームス』だった。~天からの声に懐疑的だったケビン・コスナー演じるレイ・キンセラが『ハーヴェイ』をテレビで見てよろこぶ娘に「その男は頭がおかしいんだ」とチャンネルを切ってしまう。しかしレイ自身もしだいに夢を追いかけることになっていくのだ。『ハーヴェイ』は米映画、ドラマ、メディアに、ニュアンスとして登場するほど有名なキャラクターとなり語り継がれているのだ。


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トム・ハンクス&スビルバーグ・コンビがリメイクするという話もあったものの結局は予算関係で流れてしまった。個人的にそれは大正解。スチュワート独得のエロキューションは彼だけのもの。


『ハーヴェイ』 人と違う人と常人とされる人。どちらが賢く賢くないかなどダレにも分からない。精神療養所というセンシティブな内容を扱っていながら、人格と尊厳を基本としたファンタジーとしても成立しているストーリーは滅多にない。深刻にならず人情喜劇に変えてしまうアメリカの覚悟と度量があってのこと。その懐の深さにこそ「良心」を感じてしまう。


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『ハーヴェイ』の世界を終生愛し続けたジェームス・スチュワート。誰しもが"ハーヴェイ"のような心の友を持ちたいと願っているのかもー。


"ハーヴェイ"の姿は劇中では観客には見えない。それでもーあら不思議!スチュワートの眼ざしや動作を通し、姉ヴィタとおなじように、わたしたちにも「ハーヴェイ」の姿がいつしか見えてくる!? 


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「さあ、一緒に帰ろう」 ハーヴェイとエルウッド。友情はどこまでも、いつまでも。


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おしまい。数々の人間たちキャスト、ウサギのプーカ。"Harvey"でおおくりしました。エンド・クレジットもグー!


数十年前「みんなのシネマレビュー」サイトに書いたわたしの「ハーヴェイ」レビューが覗いたら残っていました。(とっくに閉鎖されていたサイトだと思っていたらジミにまだ運営中とは!)ソレも引用しながらの記事でした。名画はいつまでも色褪せない。時間が巡って時代とともに輝きを増している気さえするのです。







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