『陽のあたる教室』 音楽教師と生徒と家族 30年にわたる感動作

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『陽のあたる教室』1995年製作/Mr. Holland's Opus


音楽教育に30年間を捧げた高校教師の半生を描いた心温まる人間ドラマ。監督は「ビルとテッドの大冒険」スティーブン・ヘレク。「母の贈り物」のパトリック・シェーン・ダンカンのオリジナル脚本。主演は「未知との遭遇」「ジョーズ」のアカデミー賞名優リチャード・ドレイファス。演奏するピアノも吹き変えなしで担当。音楽は名手マイケル・ケイメン。使用曲はベートーヴェンの交響曲第5・第7番、バッハの『ト長調メヌエット』はじめ、ガーシュイン、レイ・チャールズ、ジョン・レノンなど多彩。


作曲家になる夢を捨てきれず、生活の為に仕方なく高校の音楽教師になった30歳のホランド。教師の経験などもちろん無い。待っていたのは音楽に対してまったく関心のない、やる気のない生徒たち。しかし、子供たちのもっている可能性に気づいた彼は、音楽の素晴らしさを彼らに教えようと決心する。その後、子供が産まれ父親になったホランドだが、最愛の息子の耳は生まれつき聞こえなかった……。



ドレイファスは、アカデミー主演男優賞、ゴールデン グローブ賞主演男優賞
(映画ドラマ部門)にノミネート。
第 53 回ゴールデン グローブ賞で最優秀脚本賞。



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ケネディ暗殺の翌年1965年から約30年。アメリカの歴史とともに描き出されるのはポートランドで音楽教師をするホランドと愛する妻。先天性の聴覚障害をわずらった息子との家族の歩み。生徒たちとの様々な交流。感動的な数々の音楽と共に描き出す感動大作。


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『陽のあたる教室』日本公開時ポスター


クチコミで広がり米でも1億ドル突破。日本でもビデオ化直後から感動の声は収まらず。DVDが一時廃盤になったときはオークションで1万を超える値がついていたことも。誰にでも届くー人生における仕事と家族の愛のストーリー。映画ファンから愛されている佳作のひとつだ。


ー全編にクラシック、ジャズ、ポピュラーと、オープニングからエンディングに至るまで音楽に彩られているのも心地いい。時代の移り変わりを映し出す記録、一家族の物語が見終わったあとにひとすじの優しさと温かさを残してくれる。


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主演のホランド演じるのはリチャード・ドレイファス。堅実だけれどーただの「いい人」に終わらない、仕事、家族の苦悩、精神性の揺れを見事に演じている。



ドレイファスといえばー70年代『アメリカン・グラフィティ』『未知との遭遇』~引く手あまたの成功を収めたあと、80年代『スタンド・バイ・ミー』で久々にカメオ出演するまで存在感が薄くなっていた。原因のひとつはドラッグ依存症に苦しんでいたため。77年史上最年少『グッバイガール』でアカデミー賞主演男優賞受賞してからのプレッシャーは相当だったよう。


この作品でドレイファスは完全復活!エモーショナルな教師像を見せた。派手さはないが、みなが経験するだろう、夢の狭間と仕事の現実に悩み、揺れ動くホランドの姿が実像として浮かび上がる。


物語は65年。オレゴン。ポートランドで音楽教師として務めることになったホランドが出勤する日。


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ホランドにはバンド、ミュージシャン経験がある。夢はいつか作曲家として成功すること。ただ夢だけでは食べていけない。妻アイリスの支えもあり、昼間は音楽教師、夜には作曲、週末は自動車学校のパートをしながら日夜励むことに。


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ー教師として渇望を見出せない彼の授業は自身の心を反映するかのように楽譜とにらめっこだけの堅苦しいもの。生徒たちが傾いてくれるはずもない。授業も退屈極まりないものだ。


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そんなときー。授業が終われば早々と帰宅しようとするホランドに校長がアドバイスする。「授業は知識だけではない。生徒それぞれの方向性を与えてやることこそ、生かされるのだ」と。


ホランドは考えを変えた。己の過去を振り返った。額面どおりの授業などなんの興味惹かれなかったことを。彼は教室でロックン・ロールのレコードをかけ、生徒のこころを開く。


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クラリネットがどうしてもうまく弾けない、家族の中でただ一人、みそっかすだと涙する少女にホランドはいう。


「楽譜なんて見なくていい。きみが一番自分の中で好きだという、父親から夕陽のようだと褒められたその髪。夕陽のサンセットを思い浮かべ弾いてみよう」リラックスした彼女は、なんとか、上手く音が出すことができた!


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子供も生まれ、仕事と家庭、どちらにも充実感をすこしずつ見出していくホランド。


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あるときーフットボール選手としてはバツグンなのに授業の単位が取れず困っている黒人生徒を「なんとか助けてあげてほしい」と友人教師から頼まれる。楽譜も読めない生徒に当惑しながらドラムなら、なんとか…とホランドは奮起。


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まるで音楽はダメだった生徒とホーランドの特訓がはじまった。努力で上達した彼はカーニバルの行進でマーチング・バンドの一員として演奏するまでに。


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ドラムを叩く息子の姿を確認し路上で歓喜する父親。指揮しながら先頭で街を歩くホランドも教師として誇りを持てるようになっていった。


だがーそんなときーパレードの喧騒にもなんの反応も示さない息子コールの表情に妻アイリスが気付くのだった。


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診断結果ー息子コールは先天性の聴覚障害をわずらっていることが分かった。音楽が大好きな一家なのに息子は音さえ聞くことが出来ない。ショックで泣く妻。どうしていいか分からず仕事に集中するホランド。


夫婦2人の間に起こる諍い。ホランドは息子を愛している。だからこそ息子コールにどう接していいか分からない。次第にすれ違っていく夫婦。ときは流れー世の中もすべては変化していく。卒業していく生徒、出会いと別れ。学校も生徒たちの風景も映りゆく。目まぐるしい時代。


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キング牧師暗殺、政権交代~


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ーベトナム戦争激化へ。


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卒業生には出兵して亡くなる者もいた。中にはホランドが渾身で教えたあの生徒もー…。


ホランドは環境に恵まれているのに学ぼうとしない生徒に言う。「授業が受けられ、卒業できるということは幸せなことなんだ」


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追悼ラッパを吹く生徒は、のちにアカデミー賞主演男優賞俳優になったフォレスト・ウィテカー!初々しい。


ー怒涛のようにすぎた70年代。いつしか80年に。音楽授業は予算でカットされかねない状況に。奮起を促したいホランドは高校生たちを中心に舞台ミュージカルを開催することに。これが大成功。存続の危機を逃れる。


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ここではーもうひとつ。歌の才能がバツグンの美しい女子高生がホランドに惹かれていくエピソードが。卒業後、夢のためにN・Yへ旅立つという彼女。「ホランドに家族を捨てて一緒に来てほしい」という。


映画中、唯一、、わたしが違和感を感じた不文律。舞台で指揮をとるホランドに、情熱的な歌詞と歌声をもって「愛」を伝えるシークエンスは素晴らしい。しかしー中年教師に若干18歳の少女が逃避行へ誘うのは少々無理があった。


彼は誘いを受けるはずもなく彼女一人をニューヨークへ送り出した。妻との出会いから今日に至る日まで2人で築き上げた愛に深く気付いたホランド。家族のいる家庭にこそ生きる喜びがあることを確信したのだ。


しかしー相変わらず思春期になった息子コールとの関係はしっくりとこないまま。


ある日ー事件が起こる。80年12月8日。ジョン・レノンが撃たれるという衝撃的なニュースが…。


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ショックで失意のまま自宅に戻ったホランド。そこでも息子と気持ちの行き違いで対峙してしまう。しかしーホランドはそのとき、息子の憤る気持ち、本音を改めて知ることになるのだった。


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「ぼくをバカにしないで。僕だってビートルズを知ってる。悲しんでる。ぼくだって音楽を知りたいんだ」


息子コールの叫び。怒り。自分は長い間、息子と向き合ってこなかった。真摯に愛を伝えてこなかったことにホランドは気付く。


ーここからが、、もっとも感動的なシーン。公開時にも話題になった場面だ。


聴覚障害者の人たちにも、音楽の楽しさを伝えたい。ホランドは息子の通うスクールの先生に相談。観客席にオーケストラを近づけることを提案。さらに光の点滅と手話によって生徒に生の音楽を届けようとする。


なによりー息子コールに思いを伝えるために。


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壇上にあがり手話でジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」を自ら歌い、涙をぬぐうことも忘れ、客席の息子コールに伝える。たったひとつの父から息子への曲。


怖がらなくていい
モンスターはもういない 
やつは逃げていった 
パパはここにいる
美しい 美しい 美しいわが子よ

広い宇宙をわたっていく 
おまえがそんな年頃になるまで
待ちきれない
だけど僕らふたりとも
辛抱づよくならなければ
道は果てしない

通りを横切るときは僕の手を取るといい
自身に起こるすべてのことが人生なんだ
美しい 美しい 美しいわが子よ



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お前の人生はお前のもの。


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ビューティフルな ビューティフルな息子 コール。


覚えているのはー公開当時、作品が文部省推薦になっていたため試写会にも著名人、有名人が多数つめかけ、ワイドショーでも模様が取り上げられていたこと。劇場を後にする芸能人たちが涙ぐみながら「ビューティフル・ボーイ」のシーンについてインタビューで答えていたのが鮮烈に思い出される。純粋にこころを揺り動かされるシーンだ。


ときは流れ~95年(公開時) 高校では予算編成のため、音楽と美術の授業が廃止が決定。事実上ホランドも学校を去ることに。失意の中、迎えにきた息子と妻~体育館から聞こえるのは人のざわめき。扉を開くとーそこには街の人々、ホランドが30年にわたり音楽を教えてきた卒業生たちが。ー起こった奇跡とは!?


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立派に社会人として成長した息子と支え続けてくれた妻の先。その先には指揮をとるホーランドの姿が!


鑑賞中、映画中の観客と同時に拍手をしてしまう。映画を観た方なら音楽が人間に与える底知れぬ力を実感するだろう。


主演ドレイファスはじめ、校長のデュカキスらのベテラン勢を中心に、のちにスターになる生徒たちのフレッシュな演技も光っている。生徒役ウィテカーはじめ、ホランドに淡い恋心を抱く美少女学生を演じたグレン・ベドリーは『トップガンマーヴェリック』でヴァル・キルマーの妻を演じた女優。ドラムを覚える生徒は『アイアンマン』『クラッシュ』でアカデミー賞ノミネート俳優になったテレンス・ハワード。25年前ーみんな若かった!ブレイク前の俳優をハッケンするのも楽しい。


ー音楽の素晴らしさが凝縮された2時間。人がなにか信念をもち、ひとつのことをやりどけたときの喜び。清々しさを素直に表している作品。失敗しても人間はそれを跳ね返すことができる学びがある。


アメリカの歴史を振り返る諸法は、映画公開1年前『フォレスト・ガンプ』でも顕著だった。大戦から50年、ベトナムから25年、、95年は彼らにとっても回顧せずにいられない年だったのかもー。



『陽のあたる教室』Mr. Holland's Opus trailer


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<アカデミー賞こそ逃そうとも、勇気と感動を与え続ける作品。Mr. Holland's Opusがもつエネルギー、人生の物語とパワーはこれからも永遠に人々に届けられます







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Comments 2

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ギターマジシャン  
陽のあたる教室

学園もの、教師ものというと、「チップス先生さようなら」がすぐに浮かび、教師の家族も含めた半生、当時の世相、戦争の介入を扱っていますが、こちらの「陽のあたる教室」は、自分たちのリアルタイムの年代を扱っているので、より染み入る気がします。

それにしても、ベトナム戦争と同列まではいかずとも、ジョン・レノンの悲劇は多くの人の記憶に残る一大事件だったのだと、改めて気づかされました。

2022/09/11 (Sun) 06:35 | EDIT | REPLY |   
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m-pon5  
>陽のあたる教室

>ギターマジシャンさん
コメントありがとうございます~<(_ _)>

おっしゃる通り「陽のあたる教室」は現代版チップス先生と言えるかもしれないですね。公開時から感動が口コミでジワジワ~と広がりいまでは映画スキの隠れ?愛され映画の一本になりました。作品の設定は65年からスタートして30年間が描かれるのですが、公開からも30年近く経とうとしていることにビックリです(笑)95年からの歴史を描くとしたら、どんな音楽映画になるのでしょうね。観てみたいです~

映画の主人公はコルトレーンで音楽に目覚め、ロック、クラシックと音楽が大好きな教師の設定でしたがそれでもジョンの悲劇は大きな落ち込みとして描かれていました。ギターマジシャンさん言われるとおりN・Yという場所で起こったこともあってアメリカ人にとっても忘れられない歴史の一コマとして受け取られているのでしょうね。こういった情緒のあるドラマ洋画が全国大劇場で公開されていた頃があったことが懐かしいです。試写会にもスターがいっぱい詰めかけて。洋画がまだまだ支持されていた時代でしたね!

2022/09/11 (Sun) 19:17 | EDIT | REPLY |   

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