「コーダ あいのうた」祝アカデミー賞 音のある人もない人もすべてを紡ぐ歌の物語

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映画『コーダ あいのうた』 2021年製作/112分/PG12/アメリカ・フランス・カナダ合作 原題:CODA



2022年アカデミー賞 作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門を受賞!
父親フランク役を務めたトロイ・コッツァーは男性のろう者の俳優で初のオスカー受賞者に。



<ストーリー>
家族の中でただひとり耳の聞こえる少女の勇気が、家族やさまざまな問題を力に変えていく姿を描いたヒューマンドラマ。2014年製作フランス映画「エール!」のリメイク。海の町でやさしい両親と兄と暮らす高校生のルビー。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。幼い頃から家族の耳となったルビーは家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいた顧問の先生は、都会の音楽大学の受験を強く勧めるが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親。ルビーは自分の夢よりも家族の助けを続けることを決意するが……。


主演ルビー役にエミリア・ジョーンズ。「愛は静けさの中に」のオスカー女優マーリー・マトリンら実際に聴覚障害のある俳優たちがルビーの家族を演じた。監督はシアン・ヘダー。タイトル「CODA(コーダ)」は、「Children of Deaf Adults=“耳の聴こえない両親に育てられた子ども”」のこと。(映画com)


個人レビュー ☆☆☆☆★★★     


☆=20点 ★=5点


終盤、こらえきれない涙を止めることが出来ませんでした。


音のある人もない人もすべての人を紡ぐ歌の物語。17歳の等身大少女。主人公ルビーの一寸の曇りもない済んだ歌声がスクリーンに広がってゆくとき、自分のこころも浄化されていくように、大切な人たち、かけがえのない時間が、いとおしくてたまらなくなる。


ヒューマンドラマでありながら、過剰なお涙頂戴は一切なし。時に吹き出しそうな笑いもある喜劇でもあり、ファミリー物語でもある。少女が、それまで依存し、依存されていた家族の元から一人立ちしてゆく青春映画にもなっているところも素晴らしい!


こんなに気持ちいいほど直球作品が、アカデミー賞作品賞を獲得したのは何年ぶりだろう!


港町で漁師を仕事にし働く元気で快活な一家。仕事に悩み、ときにはジョークで返し、たまには家族でケンカもする。夫婦で愛し合うときは情熱的! 決して裕福ではないけれど、ひたむきな幸せがあった。ただーひとつ。わたしたちが日常で見る光景とすこし違うのはーそのやりとりが、みんな手話だってことだ。


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父親、母親、兄が聴覚障害をもつ中、ただ一人だけ耳が聞こえる17歳の娘ルビー。彼女は朝早く起き、手話通訳のため船に乗り込み魚を捕る。卸売り市場では手話で金銭交渉だってする。ルビーもたまには家族に愚痴もいう。学校ではクラスメイトに家族を揶揄されることもある。でもールビーはそれごと全部受け止めちゃっている。


耳の聞こえない人、聴こえる人。障害をもつ人とそうでない人。分け隔てはいまの多様性の世の中、もう相応しくない気もする。線引きさえもう必要ないのじゃないかー誰だって完璧な人なんていないんじゃない。゛フツー゛ってなんだろう。わたしだって診断されてないだけでどこか人と違うところだらけかもしれないし苦手なことだって山ほどある。


でもーそうは思っていても、周りがもし自分と異なる習慣を持ち、違う言葉で話す人たちばかりなら、きっと疎外感を感じたり戸惑ったり。反面ー彼らに溶け込もう。力になりたいと切に思うはずーそれがましてや大切な家族たちだったら。


ルビーは自分の置かれている状況を「宿命」として理解しているのか、この家族の中で生をこの世に受けたときから一人「話す」役割を担ってきた女の子。


でも、、その他においてはー素顔はどこにでもいる感受性豊かな17歳


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ルビーは元々音楽が大好き!中古レコード・プレイヤーまで買ってガンガンお気に入りの曲を部屋でもかけちゃう。ノリノリで大きな声でだって歌ってしまうー


しかしールビーがどんなに大音量で音楽をかけても歌っても家族には聞こえない。その反対にー家族が大声張り上げていても…当人たちには聴こえない。ルビーが煩わしくて注意してもポカーン。その辺りもちょっと可笑しくて胸切ない。


けれど、、新学期のある日。前からちょっとだけ気になる男の子が、『合唱部』に入るのを見たルビー。それがきっかけとなり、ルビーも合唱部へ。そこから物語は大きく動き出すのだ!


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ルビーの天性の才能を見抜いた、音楽の教師はルビーにレッスンを受けさせるうちに、彼女にこう促す。


「ボストンのBerklee音楽大学へ行け!推薦状を書く。奨学金制度もある!」


ラテン系音楽教師がじつに心ニクイ-イイ味を醸し出している。彼はルビーにこう言う。家族が仕事を手伝うため、たびたびレッスン遅れてくる彼女がたとえ聾唖の子(コーダ)だと知っても、「そうか!ーならその鬱憤や怒り、家族への思い、いままで溜めてきた感情を全部腹の底から吐き出てみろ!!そして歌うんだ!」と。


邦画だったら教師が「かわいそうね…」同情の表情がきっと入ってしまうだろう。しかし同情なんかいらない。必要だったのは彼女自身を認めてくれる叱咤と激励。教師の指導を受け、ルビーの歌唱は日ごとによくなっていく。


素質をもった原石が、磨かれ、どんどん宝石へと変化してゆくこの辺りのシーン。グッと!のめり込んでしまう。


しかし、、ルビーの気持ちは依然、晴れないまま。賃金や様々な問題から街の漁師の組合から家族は独立。障害を持つ彼らが、持たない人たちと社会で一緒に働くということの難しさもこの作品では真摯に描かれている。


ほとんど赤字状態で個人事業を立ち上げた漁師家族には、手話通訳として働き手として、これからもルビーの存在が不可欠だから


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悩むルビー。家族は「お前が必要だ、我々はお前がいなかったらどうなるんだ」という。教師やみなは彼女の歌の才能を認めてくれている。ただールビーの天性の透き通る歌声がどんなに素晴らしいか家族は知らない。だって彼らには聴こえないのだから。


果たしてルビーが下した決断とはー?家族が歩む道は? どうぞーここからは映画をご覧になってください。


真っすぐなストーリー、情景に映し出される自然の美しさはーどこかノスタルジーで70年代の風情さえある。なによりルビー演じるエミリア・ジョーンズの歌声! 一寸の曇りもなく、耳障りよく、なんて美しく心地よいんだろう。このままずぅ~っと永遠に聞いていたい。スゥッ~と身に沁みて、積もった汚れが浄化されていくような済んだヴォイス!


英国生まれで子役時代からミュージカルに主演していたというから折り紙つき。クライマックス終盤で彼女が歌う、ジョ二・ミッチェルの「青春の光と影(Both sides now)」に、胸こみあげてくるものを感じない方はいないことだろう。


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本作でアカデミー賞助演男優賞を受けた聾唖の俳優トロイ・コッツァーフランクの父親役もワイルドかつペーソスに溢れ、とても愛すべきキャラクター。家族を愛し、ルビーの背中をそっと押してくれる。兄役ロッシダニエル・デュラントも聾唖俳優。武骨で優しく口数少ない中、愛溢れた演技。ルビーにただひとり「家族の犠牲になるな」という気骨。なによりルックスもステキ!


そして、、往年の映画ファンにはナツカシイのが母親役のマーリー・マトリンだ!


86年度アカデミー賞『愛は静けさの中に』で聾唖女優として初めて最優秀主演女優賞を獲得したのが彼女だった。


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所有のビデオを引っ張り出してみました。これが当時のアカデミー賞授賞式、『愛は静けさの中にで』最優秀主演女優賞を獲得した瞬間のマーリー・マトリン。


…この時の主演賞プレゼンターが映画の共演者でもあり当時恋人でもあったウィリアム・ハート。今年、逝去してしまって…マーリンにとっても、きっといまはこの映画すべてが良き想い出になっているはず。


今作でマトリン演じるママはお洒落でパワフル。美人で、夫を情熱的に愛し、耳の聞こえるルビーにパワー与える優しい母親。耳の聞こえない自分が、どこまで耳の聞こえる娘に愛を与えれるか。彼女もまた明るい日々の中ずっと思索してきた人。


そんな絶妙なキャスティングと、今回、あらためて強く思い知られされたのはー


「歌の力」「音楽の素晴らしさ」
!


全編を彩る曲のセンスの良さがバツグン!!「I Fought the law/ザ・クラッシュ」やデヴィッド・ボウイが流れたり、なによりー合唱部でルビーたちの課題曲になるのが「You’re all I need to get by/マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル」ってもうサイコー!こんな合唱部があるなら入りたい~。


驚いたのはー映画のある歌唱シーン。一瞬すべての音が消える場面が映画館で五分くらい続くことだ。


その時「ハッ!?」とさせられる。


わたしたち耳の聞こえる人間は当たり前のように「声」「音楽」を聴いている。けれど耳が聞こえない世界にいる人たちには、それが聴こえない。音のない静粛の中で生きていることはこういうことなのだ、と。


音の素晴らしさを表していると同時に、音がない世界への理解も求めている。そこも作品の重要な゛キー゛にもなっている。


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ルビーと合唱部で「You’re all I need to get」でデュエットを組むことになった二人。ルビーと恋人マイルズとの初々しい健全な恋の行方もセンシティブで愛らしい。


わたしたちは、ひとりひとり違うものを持って生きている。それぞれが認め合い手を差し伸べ、そして自立していく。いつどんな時も、離れていても大切であることになにも変わりはないのだから。


見終わった時、自分の大切な、いまにいる人たち、過去にいた人たちも、み~んなを抱きしめたくなった。


一人でも多くの方に願わくばー物語の良さもさることながら、ルビーの天使のような歌声をぜひ大音量の映画館で聴いて頂きたいと思います。


どんなジャンルが好きな方でも、その幅を飛び越えて、劇場をあとにするときーきっと外の空気さえも澄んで、すべてに包まれるような穏やかな優しさでいっぱいになってるはず。


最後にー


作品の中で、ルビーが歌い上げて感動的なキーパーソンになっている曲を、、



青春の光と影(Both sides now)/ジョニ・ミッチェル
from the LP "Clouds", 1969



身にジーンと染入る独自の歌声と歌詞。アメリカではボヴ・ディランと双璧をなす程カリスマ的な人気と歌声を持つミュージシャン。


子供のころからずっと好きな漫画家である樹村みのりさんもジョニ・ミッチェルファンを以前から公言していたこともあり、わたし自身にとっても特別なアーティスト。映画鑑賞後一日に何度も聴いている。ああ彼女のレコード盤が欲しい~。


そして、もう一言。


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『CODA コーダ あいのうた』出演者たち、スタッフ、すべてに、素晴らしい作品を届けてくれてありがとう!!





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