「おしん」橋田寿賀子と、昭和レジェンドの脚本家たち 向田邦子 倉本聰

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昭和、平成、また令和にわたって日本のドラマ界を支えてきた脚本家、橋田寿賀子さんが旅立たれた。



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「おしん」 所有のシングル・レコードからジャケット写真


橋田さんといえばヒット作が多く、それぞれ夢中になったドラマは違うだろうけれど、やはり日本中。いやそのあと他国の人をも魅了し席巻した「おしん」をなんといっても忘れることはできません。


昭和が大好きなわたし。昭和カルチャー、映画、音楽。そしてあの頃、もしかして最も家族中の身近にあったテレビ・ドラマ。その中でも最高視聴率が62.9%。平均視聴率=「平均」が52.6%超え!だった「おしん」。 


幾度もNHKでダイジェスト版、本編がBS再放送されたか分からない。しかもそのたびに、新しい視聴者をワッと泣かせ驚かせ、ドラマ掲示板を沸かせ続けるドラマは滅多になく。


「おしん」。いまとなっては、そのクオリティは、一人の人間が逆境から這い出し、いつか恋をし、目の前に起こる苦悩から生き抜いていく、ハリウッド映画でいえば『風と共に去りぬ』や『ジャイアンツ』アメリカドラマで例えればミニ・シリーズである。


主人公を主軸にした歴史をめぐる家族一代記。『エデンの東』『ルーツ』『戦争の嵐』そういった作品群と同じ。


極貧。飢え。奉公。自立。震災。戦争。姑。愛。


「反戦」をも強く訴えかけてくる重要テーマのひとつだった。明治から昭和という激動時代を、困難から再生し続ける女性が生きる道を描いた、むしろ朝ドラというより「大河ドラマ」の部類にふさわしい。


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昭和58年4月から翌年3月までの約1年間。少女期の小林綾子。青春期から戦後直後までの田中裕子。昭和40年以降から晩年まで演じた乙羽信子。


人気俳優から舞台役者。文学座、新劇出身など力量のある出演者が圧巻の演技を見せ、いったい総勢何人の役者がドラマに関わったのだろう。どの俳優もドラマとは思えない息をのむようなリアリティに溢れていた。


じつはーわたしは、橋田ドラマをそれほど見ていた熱烈ファンではなく<(_ _)>、、


なので『渡る世間は鬼ばかり』『おんな太閤記』などもいつも視聴していたわけではありません。むしろ子供のころから、祖母や母が夢中で見ていたブラウン管の中に、いつも橋田ドラマあったというのが日常の風景。


だからテレビ放映時間になると否が応でも?濃い役者たちのセリフの応酬が自然に目に、耳に入ってきていたのでした。居間で家族が集まるのが当たり前。ホームドラマがごく自然。溶け込むようにあった時代。


思いおこせば、、、70年代。『となりの芝生』は、わたしが物心ついたとき、祖母と母がブラウン管にかじりついて見ていた最初の橋田ドラマ。タイトルからして一世を風靡。幸せそうに見える他人の家庭。


しかし、、よく見えるだけで実態は、どこの家庭も色々問題はあるよという皮肉。きらめくように美しい山本陽子が、ごく普通の主婦を演じ、家族に同居するようになった姑が大女優の沢村貞子!(上手すぎる演技力!)


そこに描かれた、ひと悶着も、ふた悶着ある、嫁姑にはさまれ、いざこざから逃げたいぱかりの夫が前田吟。これぞ永遠のテーマ、嫁姑ドラマの最初であったという声も。


とにもかくにも、橋田フリークではないわたしでも「おしん」だけは特別だった。


放映直後から「子役が泣ける」「あんな時代を忘れちゃいけない」など、巷の話題を独占し始め、気がつけば小林綾子の子供時代が終わるか終わらないうちに、とんでもない視聴率に跳ね上がっていった。


同居していた祖母は毎朝クシュクシュ「おしん」を見て泣いている。わたしは大の「おばあちゃん」っ子だったものだから大丈夫かしらと心配するくらい(#^.^#)


しかし、いつのまにか学生だったわたしや友人たちも「おしん」の行く末が気になって仕方なくなってくるという…!


情報もいまほどあるわけではない。情報源は毎週末ごと発売される週刊誌。


来週のおしん」という「まとめ」(笑)が掲載されていたため、友人たちとそれをチェックし「へーっ!おしん、旦那を残して佐賀を出るらしいよ」だの(←見ていた人は分かるはず)「こんどは東京で食堂やるって」など大いに話の花が咲いた。


学生から中高年、祖父祖母まで。おしんの行く先を視聴者みんなが見守っていた国民的ドラマ。


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田中裕子演じる「おしん」 芯が強く、ほのかな色気。なによりしっかりとした演技力が視聴者を離さなかった。


「おしん」に関して、橋田さんが上手いなぁ~!と思ったのは、明治生まれの女性の単なる苦労話、やがて自立していくというサクセス物語だけでなく、そこに少女マンガのような愛し愛され引き裂かれ、離れてはくっつく男女のドラマチック! それをぶち込んできたこと。


おしんが奉公に出される米問屋には、意地悪な同年代のお嬢さん、加代がいる。家族みんなに愛され可愛がられ、我儘いっばいで育ったきた彼女は、おしんが持つ、どこか自分にない利発さ、一途さが気になり、やがて嫉妬しイジメまくる。


でもある日のこと。おしんが、倒れかけた電柱から身代わりになって加代を助けたことから状況は一転。加代にとっても、店にとっても、おしんはかけがけえのない人物になっていく。


ところが、おしんが多感な年ごろになったある日、浩太(渡瀬恒彦) というひとりの男が二人の前に現れる。


農民運動で日本中を駆け回る、どこか危険の香りのする、しかし男らしい彼におしん(田中裕子)は惹かれていく。けれど、なんと加代(東てる美) も浩太を愛していることを知ったおしん。そっと身を引き、東京で温厚で優しい、事業主である夫と結婚。


それはそれで嵐のように翻弄されていく人生が待っているのだけれど、逆に最後まで浩太を忘れられない加代は、いつしか米問屋の衰退とともに身も滅ぼしてゆく。 


浩太と加代。おしん。激動の運命に翻弄される3人。


ジュディ・オング「魅せられて」阿木さんの歌詞の一部 『優しい人に抱かれながらも、強い男に惹かれてく~』そのままに。


少女漫画「キャンディ・キャンディ」 穏やかで柔和なアンソニーと、どこか不良っぽいけれど、強くて男らしく夢を追いかけるテリィ。どちらがタイプと迷いに迷ったあの頃のわたしたち。 橋田さんがキャンディキャンディをご存じだったかは分からない。


けれどーそんなロマンスを、、!


ー女子なら、一度は、ある、ある~微妙な女心、恋心を、橋田先生が、女一代記に絡ませたことも大きかった。朝ドラ視聴者にとって(とくに女性) ヒロインが誰と結ばれ、どんな行く末に愛をまっとうしていくか。その芯がなければ面白さは半減してしまう。


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「おしん」最終回のおしんと浩太。「もう、あの時代を語り合える人は、わたしたち以外には誰もいなくなってしまいましたね」どんな時も肝心なところでおしんを助けてきた浩太。



明治、大正、現在と~日本人が生き抜いてきた時代の一大抒情詩。当時の潤い過ぎていた日本経済への警告でもあり、個人的には、やはり橋田作品の最高作はこれではないかと思っています。


ところで、、、、、


橋田寿賀子氏と並ぶ昭和の脚本家といえば。誰でも知っている有名どころというと、、


ほぼ同年代の女性脚本家でいえば、、、


平岩弓枝 「ありがとう」「細腕繁盛記」「御宿かわせみ」向田邦子 「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」「あ・うん」



あたり、ということになる。


わたしは正直にいうと、、橋田さんより上記の二人の方がずっと馴染みが深い。


平岩さんも、向田さんもドラマ脚本のみならず、小説も執筆しているのでそのせいもあるかも。ふだん、読書するのは海外小説が7割以上占めるのに、二人の文庫本はなぜかほぼ揃ってしまっている。日本女性の生き様や色恋が、時代と相成り、そこはかとなく反映されているところが好きだ。


橋田さんは小説こそ書かなかったが、母がよく橋田さんのエッセイを読んでいたから、わたしも目を通したことがある。


印象的だったのはその中で橋田さん「わたしは不倫は絶対ドラマの中で書きたくない。人が不愉快になるようなものは好ましくない」(多少ニュアンスは違っていたかもしれない)と、語っていたこと。ならば嫁姑問題ギスギスにも不快に思う人がいるのではないかしら?と少々ツッコミを入れたくなったけれど(笑) しかしそれが橋田さんの生涯スタンスだったと思う。


個人的に大まかに分けて考えると、、


向田作品が書く女性の業や色香。幸せの中にドキっと潜む翳。真逆が橋田作品の家庭内の姑嫁ゴタゴタ=直球ドラマ。二人の中間が平岩作品。ほのかな人妻の逢瀬。しんなり。てんやわんや丁度いい具合。三種それぞれの特色があった。


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↑ここに興味深く面白い本があります。「お茶をどうぞ」 向田さんがご存命中、様々な著名人たちと語り合っている対談集。



こちらは文庫である。これが大変面白い。


本の中でなんと !向田邦子。橋田寿賀子、倉本聰に山田太一。 レジェンド脚本家4人が対談しているのだ。


しかも4人全員共通の意見が報復絶倒ー!


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いやな人の台本は書けない」 (笑)


橋田「いやな人だと書けなくなっちゃう。だから局に相談して「ノー」ということは言います」


向田「全く同じですね。もう、この人の書くぐらいなら転職したいと思う人がいますよ」


山田「好きになろうと努めるところはありますね」


倉本「僕も嫌いな人は絶対に拒否する。ただ、ね。僕が好きでも役者同志が嫌いというのがいるわけね。これは困る」


読んでいくと、脚本家もいろいろ大変なんだなぁ、と。


テレビ局から言われ視聴率のため、どうしてもこのスターで書いてくれと言われたり、私的なことと重なるため「どうしてもこのセリフは言えません」など俳優から要望があることも。俳優の好みは「波長の問題なのか」「ウマが合う合わないのか」などそれぞれ本音でトークしている。


おなじ脚本家作品に、起用される俳優がほぼいつしかお馴染みになってくるのも、そういう理由があるのだなと。


橋田さんも、たぶん好みがハッキリしている部類。過去に、橋田さん脚本の朝ドラを降板した某女優然り。


「おしん」を演じた田中裕子も、撮影中の限界を極めるセリフの多さ。演技畑の違いなど困難さも含め、お互い色々思うところあったのは察しがつく。いっさい「おしん」のことについて語らなくなったのはそういった理由が大きいそう。


逆に、倉本さんが信頼して文句なく好き! 脚本の想いすべてを託し続けた俳優の1人が、この間逝去された「北の国から」田中邦衛さんってことになるのだろう。


橋田さんでいえば「渡る世間ファミリー」のような。まずは卓越した脚本。それをものの見事に表現してくれる俳優。しかも、それがずっと続くというのは奇跡に近い。ワンシーズンでもいい。これからもそんなドラマに巡り会いたいものです。


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おしんと浩太が最後の場面で見つめた未来の日本。あれから37年。いま日本は豊かになっているのでしょうか。


やたらコンプライアンスが厳しくなった昨今。それでも、「おしん」はこれから幾たびも放映され続け、昔、自分の心にも持っていた大切な何かを思い出させてくれるはず。



「おしん」テーマ曲。


それにしても、橋田さん。田中邦衛さん。田中昭和の時代にいてくれて当たり前だった唯一の人たちがいなくなってしまう。こみあげる寂しさ。残してくれた数々の作品と、生きてきた証はいつまでも。 心にたくさんの思い出をありがとうございます。



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Comments 2

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ギターマジシャン  
おしん

朝ドラの記憶をたどると、古いものは回顧番組で見ていて、おそらくリアルタイムの記憶ではなく、小学生の頃、サンダーバードのプラモデルを買いにNHK見学コーナーに行った際、なぜだか「繭子ひとり」と書いてあるスカーフを母へのおみやげに買って、タイトルだけですが、朝ドラを意識した最初で、続く「藍よりも青く」は漢字が難しいなあ、「北の家族」はグラフNHKの表紙になった高橋洋子がきれいなお姉さんという感じで印象に残ったりしました。

そうそう、幼稚園の頃、親戚の家に泊まりで遊びに行っていた時、「おはようこどもショー」や「ピンポンパン」を見ていると、朝ドラにチャンネルを変えられてしまい、うらめしく思ったのも懐かしい思い出で、それが「おはなはん」だったかと思います。

「おしん」より前に子役が話題になったのが、「鳩子の海」で、これは大人になった役者さんにけっこう批判が集まって災難でしたが、「おしん」は冒頭から音羽信子が出て回想の形でしたし、成人期は田中裕子だったから、小林綾子の演技をほめても、田中を批判する人は少なかったような記憶です。

昔の朝ドラは、1年間やっていたので、けっこう壮大なストーリーになることも多かったですし、「おしん」はm-pon5さんがおっしゃるように「風と共に去りぬ」などの大作映画に匹敵しますね。

橋田寿賀子、向田邦子、さらに倉本聰となると、いろいろ書きたくなりますが、いずれまた記事をアップしていただけるでしょうから、その際に語らせてください。

2021/04/11 (Sun) 06:19 | EDIT | REPLY |   
m-pon5
m-pon5  
Re: おしん


>ギターマジシャンさま

コメントありがとうございます(*^-^*)

ギターマジシャンさんの朝ドラの記憶。サンダーバードのプラモデルを買いにNHKへ。その時にお母様のプレゼントのスカーフも購入されたという、幾つもの昭和の思い出の重なっていて、とっても優しい気持ちになりました。

「おはなはん」 樫山文枝さんが評判になった超人気の朝ドラ「懐かしテレビ」のような番組でダイジェスト版を少しだけ見たことがあります。ヒロインが木に登る姿。朝ドラの定番になったという伝説が。カワイイ♪

「繭子ひとり」「青の家族」はー度は見てみたい作品です-。
「鳩子の海」もダイジェスト番組で拝見しました。子役の斎藤こず恵がスゴイ人気になり大人になってからが「Gメン75」の藤田美保子さん。わたしは藤田美保子さんのクールな美貌が大好きなんです。でも確かに斎藤さんはお目目クリクリのカワイイ顔。知的な美貌の藤田さんではちょっとミス・マッチだったかもしれませんね。番組の中でも「わたしに批判が集まって大変だったの」って笑いながらおっしゃってました。なかなか配役は難しいですよね。

「おしん」は、おっしゃるとおり田中裕子にはあまり違和感はなかったようなんですけれど、乙羽さんに交代されてからは、かなり批判があったようなんです。最初は乙羽さんが回想するシーンとして頻繁に出てきたのが、いつのまにかあまり登場しなくなったので、あとから見た視聴者が乙羽さんに交代したときに「健気だったおしんが、あんなにしっかりしたお婆さんになるのは違和感ある」とか視聴者から声があったそうで、あとで乙羽さんもかなり当惑したと語っていたそうです。

乙羽さんはしっかりとした演技をする人だったから、視聴者もそう思ったのかもしれませんね。わたしの母や祖母は「女ひとりで子供を育てて苦労したおしんだからこそ、あれだけ強くなっても当たり前」と言っていまして、わたしもその意見に賛成でした^^

「おしん」は朝ドラの中でも暗いシリアスな部分も多かったですよね。だからこそ印象的。
子供のころのおしんが奉公が辛くて山の中に逃げ出し、中村雅俊が演じる戦争反対派で逃亡した脱獄兵と一年間山で一緒に暮らすシーンとか心に強烈に残ってます。『君、死にたもうことなかれ』与謝野晶子の本とハーモニカを彼から貰うおしん。それを一生大切にする。ああいう内容は、いまなかなか書けないかも知れませんね。

思い出のある方が旅立たれて本当に悲しいです。

ギターマジシャンさんのいちばんお好きだった、ギタープレイヤーの和田アキラさん。名前しかご存じなかった私が、と思いコメントを控えておりました。けれど、皆さんのサイトなとでその素晴らしいプレイのいくつかを聴かせていただいて、ほんとうに素晴らしいプレイヤーだったんだと感動しました。まだまだ早すぎます。一番自分が大好きだった人。ギターマジシャンさんのお気持ちを思うと、ほんとうに時間の流れが切ないです。

2021/04/12 (Mon) 19:19 | EDIT | REPLY |   

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